著者
岸本 充生
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 = Kanto Gakuin journal of economics and management : 関東学院大学経済経営学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.275, pp.26-44, 2018-11

安全や環境を保護するための社会的規制の必要性は誰もが認めるところであるが,個別の案件になると賛否が分かれる場合が多い。そのような場合に,RIAを活用して,事前に影響を可視化したうえで,合意に至りやすくするとともに,効率性,透明性,アカウンタビリティを確保するための工夫が前世紀から諸外国で続けられ,OECDからもたびたび報告書や勧告が出されてきた。本稿では,英国,EU,オーストラリア,米国をとりあげ,RIAが定着していく歴史的経緯,現在の規制策定プロセス,そして近年盛んである既存の規制への取り組みの3 点から整理した。日本ではRIA制度の開始が遅れただけでなく,いまだRIAが規制策定プロセスに統合されておらず,その潜在的な力がまったく発揮できていない。法律のそもそもの建て付けによるところも大きいが,諸外国の動向を参考に,EBPMとしてRIAシステムを再構築するにはどうすればよいか考察する。
著者
野村 智夫
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 = Kanto Gakuin journal of economics and management : 関東学院大学経済経営学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.273, pp.153-161, 2018-03

債務免除を受ける事業再生においては,債務免除額の算定につき,全面時価評価をした総資産額に基づき算定される債務超過額を基礎とする実務が培われてきた。会社更生法は計算規定を設けており,全面時価評価による評価益,評価損の計上が認められ,法人税法上も容認されてきた。しかし,民事再生法には計算規定がなく,会社法の計算規定によることとなり,現行全面時価評価はあり得ないものと考えられている。20 年に渡った事業再生の時代の中で,会社更生手続き,民事再生手続き,あるいは一定の基準に基づく私的整理といった諸手続きは,事業再生における手段の選択となった。経済実態は同一であり,統一された会計処理が求められるように至った。本研究ノートは,事業再生の会計基準は制定されていない現状において,唯一実務の参考となり,法人税制にも影響を与えている日本公認会計協会制度委員会研究報告第11 号の研究を通じ,事業再生会計基準の方向性を考察するものである。
著者
三井 泉
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 = Kanto Gakuin journal of economics and management : 関東学院大学経済経営学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.282, pp.34-47, 2021-03

本稿の目的は,M.P.フォレット(Follett, 1868–1933)の思想の中でも,とくに彼女の社会プロセス論の主要概念「交織(inter-weaving)」に注目し,その現代的可能性を示すことである。フォレットがこのような概念を生み出した時期は,1918–パンデミック(スペイン風邪)がボストンを襲った時期であることにも注目したい。彼女は政治学,哲学,歴史学,心理学などの学問的蓄積の上に,長年のソーシャルワーカーとしての実践活動を通じて,個人のダイナミックな相互作用を基盤とした社会観を提唱した。本稿では,特に「経験の交織」という彼女の視点に注目し,それを我々が現在直面しているCovid-19 を乗り越えるための一つ視座として位置づけ,「インターネット社会からインターウィービング社会へ」という視点の転換を提案したい。
著者
施 桂栄
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 = Kanto Gakuin journal of economics and management : 関東学院大学経済経営学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.273, pp.58-69, 2018-03

本研究では,1990年代に生まれた日本と中国の大学生を対象とし,それぞれの心理的環境(測定項目:孤独感,自尊心,自己開示)と社会的行動(測定項目:対人信頼感,集団主義,向社会行動)について質問紙を用い比較的な調査を行った。日本人大学生152名と中国人大学生236名が本調査に参加した。分析の結果,(1)心理的環境:「孤独感」においては,日中大学生の間に顕著な差が見られなかったが,両方ともやや高かった。「自尊心」と「自己開示」においては,日本人大学生よりも中国人大学生の方が自分の能力や価値を高く評価し,現実的な自己に関する情報を多く提供することが検証された。(2)社会的行動:「対人信頼感」においては,日中大学生の間に顕著な差がなかったが,両方とも低かった。「集団主義」では,中国人大学生が日本人大学生よりも顕著に高かった。中国人が「個人主義的」,日本人が「集団主義的」という従来の主張と異なって逆の結果となっている。また,「向社会的行動」では,日本人大学生と比べ,中国人大学生の方が他者を助ける意欲が強いと見られたが,両方とも評価得点がやや低かった。今後,日中両国の社会や経済,文化など多様な視点からその背景的影響要因を検証することが必要となるだろう。